■モデルケース
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このところトヨタの本を読んでいて気づいたのですが、TOC導入の際には「モデルケース」で取り組んでみることも良いようです。
N県の印刷会社H社も加藤・桜井両氏が3グループ中、ひとつのグループでTOC導入を図り成功しました。モデルケースで理想形を試していたときに、他の2グループは旧態依然とした手法で取り組んでいたので、新旧の違いが明らかになりました。
ここは大事な点です。目標対比、ベンチマーキング等々といってもいいわけですが、全員が違いを目の当たりにするのは大事な点です。しかも、作業時間の計測や全体のリードタイム計測などによって、「違いの数値化」もできるので、さらに説得力があることでしょう。
長崎県のホームセンターO社でも同様にK専務が十数店舗ある中の1店舗に日参して、倉庫革命を行い利益を伸ばしました。そこでの倉庫革命を、他店舗の店長が目の当たりにして、次から次へと広がっていきました。K専務は自信を得ることもできたし、社員の同意も得られたという事例がありました。こういったことが、国産TOCで共通することのようです。
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全社を一気に変えるというのは、日本人の気質や教育程度、歴史などから考えるとあまり得策ではない場合があります。これが米国などでしたら、「今日からこのように手足を動かせ」といえば、それで済むのかもしれませんが、日本では社員の納得、合意形成、理由説明等々は案外重要な役割を果たします。
■同じラインが複数ある場合
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モデルケースによるTOC実践のケースを考えたときに、まず複数の似たよう
なラインがある場合を考えてみましょう。
県別の支社や、セル生産方式などのように同じ仕事を複数のラインでやっている企業の場合は、先のO社のように、ある店舗をモデルケースとして、作業改善等で理想的なやり方を、「小さな単位」で行ってみることが有効です。そこでは、従来の仕事のやり方にとらわれず、不具合などを取り除いて、最も理想的な仕事のやり方で実験をしてみます。
こうすれば、もし問題があったとしても、全体に及ぼすリスクは小さなものとなるでしょう。しかも小さな単位ですから、全体調整、不平不満等も小さなもので済みます。
さらに実験結果は公表しながら、「よりよい仕事」の再構築をおこなうことで、あらゆる成果を全社に伝えていき、やがて全社の構造改革に取り組むことが良いと思われます。
「小さく産んで、大きく育てる」。これは成功についても同様のことがいえます。
■ワンラインの場合
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一方、ベルトコンベアー式で、ひとつのラインしかない場合には、いくつかの方法が考えられます。
●モデル物件で実験する
モデルとなる物件を指定して、その物件のみ作業方法を変えて実験をしてみます。計測をしてみるというやり方です。この場合には多少のリスクは覚悟しなければなりません。しかし、TOCのダイスゲームが社員の合意形成に最も効果を発揮するパターンでもあります。
●サブラインをつくる
特定の物件に対して、サブラインを設定して、そちらで作成する方式。実験のために、バイパスをつくって流していきます。外注管理等も計画的におこない、現在の不具合を明らかにしながら理想形を探っていきます。
●セル生産方式への転換
セル生産方式が良いことは実証ずみですが、それでもいきなりセル生産方式に変えることすら問題が出てこないとは限りません。しかし、セル生産方式にすれば、ベルトコンベアー式のように、一箇所が止まれば、すべてがストップしてしまうというリスクは無くなります。
ひとつの部門で行っていることを、複数のチーム制にして、駅の改札を複数にして流れをよくするようにしながら改善の競走をするという方法は有効です。
■三段階の改善
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これもトヨタ式に述べてありますが、改善はまず最初に作業改善から着手せよとあります。その図式は下のとおりです。
レイアウト改善(環境)
設備改善(モノ)
作業改善(ヒト)
このように、まずはヒトの「手足の動かし方、移動、タイミング等」を変えてから次に投資について考え、その上で工場レイアウトや環境等について段階的に考えろといいます。
私がTOCで、業務フロー作成をしつこく言うのは、この作業改善を眼に見える形にして、まずは追加資金投入をせずにMQを上げる、リードタイムを短縮する、在庫を半減することに取り組むべきだと主張していたからです。これはトヨタ式と同じく、まずはいまあるものを活かすということでした。
この作業改善で得た利益は、次に設備投資に投下します。
そして設備投資で得た利益は環境改善に投下していきます。
これは、より投資額が大きなものへと順序だっていることに気づかれたことと思
います。
さて、なぜ「改善」をやるのか?
その理由は、Qアップだからです。
需要拡大、マーケットシェアの拡大や、新規事業分野といった、「Qアップ」のためにやるわけです。
よい品質のものを、安く売る。これが顧客志向です。
反対を考えてみると、粗悪品を高く売るですから、こういった企業は市場から駆逐されていくことは明白です。
競争相手が、半額で仕掛けてきたときにでも、悠々とそれに対抗できるだけの「余裕」を持っていたいから、いち早く改善で、MGやTOCで企業革命を実施していたいのです。その余裕をもつことが、企業の体力ということです。
■事例 ある建設業者の場合
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着工中の建設現場には、軽量鉄骨をはじめとして、コンクリートなどの材料が山積みされています。しかし果たしてそれは本日使用するものであるかといえば、そうではなくて、後日使用する材料であったりします
なぜ、本日使用しない材料が貴重な作業面積を占有するのか?
不思議なのですが、これが過去からの慣習だからです。
もし、中間のデポなり、工作所を設けておけば、その日必要な材料を的確に届けることができるでしょう。そうすれば作業面積も広くとれて作業時間の短縮にもつながるはずです。しかも鉄骨などを建築現場で切れば、騒音の問題が発生します。それを別の工作所で切断してから運搬してくれば、騒音の問題も解決できるわけです。
これも、「TOCは大きな山を小さく崩すこと」という鉄則から考えれば、なん不思議もありません。このケースでは、先のモデルケースとして、特定の現場で作業や計画のやり方を新しい方式でやってみることです。そうすれば現在の不具合がボロボロと出てきます。
たとえば、建設会社なのに、じつは正社員は仕事のことは何も知らずに、下請け業者まかせであるということや、単なる指示者、もしくは、価格交渉だけに終始しているということも見えてくるかもしれません。
現場に行かず、実態を何も知らない者が、高い品質を保証し、納期を改善することはできませんが、企業規模が拡大するほどに、現場から遠ざかり、単なる手配師、調整をすることが仕事であるかのように錯覚しているリーダーは多いのです。
価格に関しても、ゆるい客には価格を上乗せして、厳しい客に関しては下請けを叩いて利益を出している。そういった事も見えるかもしれません。
つまり原価計算などはしていなかったのだということも明らかになったりします。
経営者は、こういった「裸の真実」を見なければ、本当の企業革命はできないのではないでしょうか。
■事例 ある商社の例
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なぜ、1枚の注文なのに、100枚もとるのか?
建材パネルを販売している会社での事例です。
こういう事例は多くて、100枚とれば材料費(V)が安くなるからだというのは会計学を間違って理解しているからです。残りの99枚は売れるという保証はどこにもあ
りません。。
売れる保証のない在庫。それは単に資金を減少させ、倉庫のスペースを陣取っているだけにすぎません。
会計上どうであろうと、実際の企業では、在庫は資産であるというのは間違いです。
在庫は無いほうが良いのです。
「もし売れたらとか、買ってもらえたら」という、「たら、ればの世界」は事実ではありません。それは単なる希望にしかすぎません。
貸借対照表にはウソが多いのです。とくに資産の部にはウソがたんまりと入っているのだから、経営者はあまり鵜呑みにしないほうが良いのです。
1枚の注文であれば、たとえVが多少高くとも、1枚だけ注文したほうがキャッシュ
フローはよくなります。
必要なものだけ買う。
これが経営者にとってどれほど重要な意思決定であり、購買担当者の心構えであるかは計り知れません。世の中は、「多品種少量」といいながら、あいかわらずロットで物事を考える姿勢が残っています。これが、「思考制約、方針制約」ということです。
■まとめ
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ここでは、モデルケースの重要性について述べてきました。
TOC導入を阻止する最大の問題は、思考制約・方針制約です。
つまり、「これまでのやり方は変えられない。変えたくない」という思考制約が強ければ強いほど、企業革命の実行は遅れます。
それを回避するには、いきなり全体を変えるのではなく、小さな単位から企業革命を起こしていこうということであります。
そして、その様子をつぶさに観察しながら、改善の手を緩めず、よりよい方法を模索しながら全社最適に導いていこうということです。
●ここで思い出すのは、「見ずば信ぜす」という言葉です。
誰しも、いまのやり方が最上だとは思っていないにもかかわらず、いまのやり方から抜け出せずにいます。それを打開するには、もっと良い方法があるんだということを目の当たりにしなければなりません。
しかも、それは身内であり、同僚が、もっと良い方法で、楽に、しかも、よりよい品質をスピーディに作り出しているという事実を自分の眼で見ることです。
それは、説得よりも強力な、「現実」です。
そうしたものを底辺として、TOCの向かうところは、「全社最適」です。
全員の笑顔が目的です。社員をはじめとして、顧客や、仕入先といったすべての
関係する人たちの笑顔が目的です。
● 「大きな山は小さく崩せ」
これがTOCで最も重要な鉄則です。
問題が発生した場合には必ずこの考え方を頭の中に浮かべてみてください。
。あらゆる側面は、この言葉で解決していくと思われます。
バイキング料理を食べるときを考えてみましょう。
一度に多くの料理をトレーにのせてあれもこれもと取るのは、「ロット思考」です。
結局は食べ残しを大量に発生させます。食事の量は、胃袋(脳の感覚)というボトルネックで決まってきますので、最初は少し取って、美味ければ再度挑戦すればよいわけです。
また、事務の仕事で考えれば、まとめて20日に伝票処理をするのではなく、日々
完結型(ニチニチカンケツ)で、その日発生してものは、その日のうちに処理をして帰れば
よいわけです。これは輸送問題や在庫問題についても同様のことがいえます。
とにかく、いっぺんでやってしまうほうが有利だという考え方がロット思考で、これが諸悪の根源になっています。
THE GOALの三作目の「チェンジ・ザ・ルール」では、流通問題について述べていました。TOCに成功した製造業が今度は流通在庫問題で苦しみます。
その解決策は、在庫の持ち方でした。
一箇所で在庫を持たずに、複数箇所に分散すればよいということでした。
これは市場が大きく変動した場合に、そのリスクを回避するためには、どのように在庫をもったらよいかというテーマについての解決策であったわけです。
■在庫を減らせばリードタイムが短縮する
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●企業はフロー
通常、在庫を減らせばリードタイムは長くなると考えられています。
それは、いま早急に作らなければならないので、在庫がないと、発注時間がかかるではないか、手待ち時間が増ではないかと思っているからです。そのために、手の届く範囲に安全在庫を持ちたがるわけです。
しかし、TOCでは、逆に在庫(材料、仕掛り、製品を含む)を減らすことによって、リードタイムは短くなるという、新しい考え方を理論的に提唱しました。これが画期的なことなのです。
まったく同様のことを、日本ではトヨタが実行していました。
それは、JITであり、必要なときに、必要なものが揃えばよいのだということを、大野耐一博士が提唱して大成功していました。
さてこれらのことは何をいわんとしているのでしょう。
結論からいえば、企業はフロー(FLOW)だということです。
フロー(流れ)を良くすれば利益が出てきます。
そのフローを阻止するもの、流れを止めてしまうものが「在庫(悪いSTOCK)」なのです。それは流れの良い川に石を積んでしまうことと同じです。
●仕事の優先順位
もし、あなたの目の前に、やるべき仕事があったとしましょう。
当然のことながら、あなたはそれに着手しますよね。
しかし、その後に続く仕事で、もっと優先順位の高い仕事があったとすると、果たして、いまやっている仕事を中断しても、それに取り掛かるでしょうか?。しかもそれが一日一回のことではありません。一日に何回もそういった優先順位の変更があるとしたならば・・。
●人間は、一度にひとつのことしか手がけられない。
これも当然のことです。
であるならば、いま手がけている仕事の後方に待っている次の仕事は、ひとつ程度ににしたほうが良いです。いくつもの前繰りの仕事を抱えていればいるほど、その後に入ってきた優先順位第一位の仕事に着手する時間は遅れます。もし着手が遅れたら、その遅れは次工程以降に影響を及ぼし、結局はその連鎖がリードタイム遅延へとつながっていきます。納期遅れを生じます。
そう、仕事はフローで考えなければなりません。
いまやっている仕事が終ったならば、次にやるべき仕事は開始時間前には到着していなければなりません。MGでいうと、投入完成がスムースに行われなければ、MQは生まれてきません。実際には、そのようなことは無理だというのであれば、多少の前繰りの仕事というバッファはあったほうが安全だとは思います。
しかし、それが多すぎるというのが、いまの日本の仕事のやり方なのです。
在庫が多ければ、優先順位の高いものが流れていかない。それを解消するために残業などでカバーしている。そういう傾向があると思います。
●在庫量とリードタイムの関係
在庫を減らせばリードタイムは短縮できる。これがTOCが唱えていることです。
この逆を考えて見ましょう。
それは。「リードタイムを短縮すれば、在庫は減る」です。
しかし、どう考えても、この逆の説はありえないと思うのです。
ここは誤解を得るといけないので説明をしますが、TOC導入のサイクルが回り始めれば、上記のことは相乗効果を発揮します。
しかし、最初の第一回目のサイクルを回そうとするときには、まず在庫を減らすこと
が先だといいたいわけです。リードタイムを早めることが先ではないよということです。